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福岡地方裁判所 昭和36年(ワ)733号 判決

原告 福岡県金融業協同組合

被告 国 外一名

訴訟代理人 中村盛雄 外三名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「福岡地方裁判所が、昭和三六年(リ)第二二号配当手続事件につき作成した配当表のうち、各被告に対する配当記載部分を取消し、更に原告の債権額について第一順位の優先配当に変更する。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求め、請求原因として、

「一、被告会社は福岡地方裁判所の差押命令(同庁昭和三六年(ル)第一五五号)に基き訴外債務者三和建設株式会社登録名義にかかる福岡二局六八二九番の電話加入権の差押をなしたので、右訴外会社に対する債権者である原告はこれが換価命令(同庁(ヲ)四二〇号)による競売売得金に対し配当要求の申立をした。他方被告国は右訴外会社に対する昭和三六年度の国税(源泉所得税)一、三七〇円の交付要求をしている。

二、しかして同裁判所は、昭和三六年八月一八日前記売得金の配当期日において、売却代金五五、〇〇〇円より費用を控除した残金五一、五二五円につき、まず被告国の交付要求額一三七〇円を優先して配当し、その剰余金五〇、一五五円について被告会社の債権額二二、一八〇円、原告の債権額八一、五二一円に按分比例した平等配当をなす旨の配当表の記載(配当額、被告会社一〇、七二七円、原告三九、四二八円)をなしているので、原告は右期日において被告らの右配当表記載に異議あることを申立てた。

三、原告の前記訴外会社に対する債権は昭和三五年八月二二日付の金員借用並びに根質権設定契約(同日質権登録済)に基く質権債権の配当要求であるところ、被告会社の債権は一般債権たる小切手金請求権であり、被告国の源泉所得税は昭和三六年四月二四日を法定納期限等とする国税であり、これは国税徴収法第一五条第一八条により右期限等以前に設定された原告の質権に劣後する債権である。

四、よつて原告の債権は民法第三四二条に則り被告らの債権に優先して弁済を受くべき債権であるから、原告は前記配当表のうち被告らに対する配当記載部分につき異議を申立てたが、被告らはこれを正当としないので、本訴に及んだ。」

と陳述し、被告国の答弁に対し

「一、民事訴訟法第六四九条第四項が電話加入権質の配当要求に適用されるか否か解釈上明確ではないが、仮に適用ありとするも、原告の優先弁済権を否定する結論は同法条の解釈上ありえない。

二、同法条が売却条件を規定した競売の手続規定であることに異論はない。しかして、余剰主義の制限の下に消除主義、引受主義を規定していること、同条第四項が引受主義の規定であること法文上明らかである。同項は、競落人が質権を以て担保される債権等を弁済する責に任ずることを規定するに止まり、競売における質権の優先弁済権を否定した実体規定ではないのである。即ち配当要求における優劣は、各債権の実体法上の性質、優劣によるのであつて、同項があるから質権者は優先権を喪失する、との解釈が許されるならば、不動産質権者、電話加入権質権者は常に優先権なき単なる一般債権者となり、質権の優先弁済権は全くその限りにおいて否定されるのである。

同項は質権者の優先権を否定した規定ではなく、優先権の肯定を前提として、更に弁済に不足ある場合にはその効力が競落人に及ぶ旨の規定である。」

と述べた。

被告会社代表者は主文同旨の判決を求め、答弁として

「原告主張の事実関係はすべて認めるが、原告の法律上の主張は否認する。」

と述べた。

被告国指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として

「一、原告主張の事実関係はすべて認める。

二、しかしながら、質権の設定されている電話加入権について他の債権者から強制執行がなされた場合、その質権が如何なる取扱を受けるかについては、電話加入権質に関する臨時特例法には何らの規定もなく、民事訴訟法の規定も明瞭ではないが、不動産執行に関する民事訴訟法第六四九条第四項の適用あるものと考える。けだし、電話加入権質は登録を対抗要件とするもので、これを登録制度のない動産質と同様に取扱うのは妥当を欠くからである。即ち電話加入権は質権の負担のついたまま強制執行の目的となり、換価命令又は譲渡命令による処分があつた後も質権は引続きその効力を持続する。従つて右処分によつて電話加入権を取得したものは、その質権の被担保債権を弁済する責に任じなければならない。

右の如き理由により、本件配当手続において原告は優先配

当を受くべき債権者でないから、原告の本訴請求は失当である。」

と述べた。

理由

一、原告主張の事実関係については、すべて当事者間に争いがない。

二、そこで原告の本件質権付債権が、原告主張のように本件配当手続において被告らの債権より優先して配当を受くべきものか否かについて考えてみる。

(一)  民事訴訟法上、電話加入権に対する金銭債権の強制執行は、動産に対する強制執行として債権その他の財産権に対する強制執行(同法第五九四条以下)の適用を受けるものである。

(二)  不動産に対する金銭債権の強制執行の場合には、登記された抵当権者先取特権者及びその権利を証明して届出た先取特権者は当然に目的不動産の競売代金の配当に加えられて手続上優先弁済を受けることができるようになつている(民事訴訟法第六四八条に第六四九条)けれども、動産に対する強制執行の場合には、特定差押財産の上の担保権者は、配当手続上考慮されておらず担保権者たる資格においては当然には配当手続に加えられないのであつて、ただ同時に人的債権者でもある場合に限り人的債権者たる資格において配当要求をすることができるのである。

(三)  質権の設定されている電話加入権に対し他の一般債権者から強制執行がなされ、換価命令により電話加入権の競売が行われる場合、不動産執行における抵当権に関する民事訴訟法第六四九条第二項の如き所謂消除主張をとる旨の明文の規定はないので、債務者自身が任意に質権の設定された電話加入権を売却する場合と同様に、当該電話加入権は質権の負担のついたまま競売されて競落人に移転するものと解され、質権自体はその目的たる電話加入権の競売により何らの影響も受けるものではない。

以上によれば、原告は、本件電話加入権に対する強制執行において執行債務者たる三和建設株式会社に対する人的債権者として配当要求をなすことを認められ本件電話加入権の売得金につき執行債権者たる被告会社と平等配当に与りうるだけであつて、質権者として当然に優先配当を受けることはできないものと解するのが相当である。

原告は、本件配当手続において本件電話加入権質権者たる原告に優先配当が認められないならば、電話加入権質権者は常に優先権なき一般債権者となり質権の優先弁済権は全くその限りにおいて否定されると主張するが、本件電話加入権の競売によつても原告の本件電話加入権に対する質権は消滅しないこと前述のとおりであるから、原告は本件平等配当によつて満足をえなかつた残債権につき競落人に対しその質権を実行して優先弁済の実を挙げることができるわけであるから、原告の右主張は当らない。その他当裁判所の判断に反する原告の主張は採用することができない。

三、そうだとすれば、原告の本訴請求は失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 吉永忠)

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